ソルティライムシャーベット

小説とかライトノベルとか漫画とか邦楽とかの感想とか

彩瀬まる あのひとは蜘蛛を潰せない 読みましたというか読めて良かった

あのひとは蜘蛛を潰せない (新潮文庫)

あのひとは蜘蛛を潰せない (新潮文庫)

ゾクリとヒヤリとした薄ら冷たい沼にズブリとまたズブリ浸かっていく。侵食されていく。そこから浮き上がる物語。なんておもしろなんだ。なんだこのオモシロは。

椎名林檎さんが帯でこの小説を冒険と言っている。その通りだアイアグリーダ戦ってんだそう戦ってんだよこの小説は。バトル野郎小説なんだよぉ。何に戦ってるのか?喧嘩なんかじゃない。ステゴロなんかじゃない。ボクシングなんかじゃない。スポーツなんかじゃない。シグルイなんかじゃない。ましては自分自信、世界なんかじゃない、うんじゃないかも?けど戦ってるんだ。

主人公はアラサードラッグストアーテンチョーガール。母親との二人暮らし。口煩い母親。けど自分のために言ってくれてる。自分のために料理してくれる。母も愛があってこそと優しい想いがあってこそ、そうする。愛。優しい。優しさの沼。その優しさは、自分へと繋ぎとめるため自分のための優しさ。重いがのしかかる想い。

兄夫婦が子供が生まれ実家に帰るとの事でこれぞチャンスとばかりに家を出るアラサードラッグストアーテンチョー。初めての自立という名の母からの逃避。バイトの大学生との恋愛。優しさから抜け出して初めてを色々とやるアラサー。戦い。

そして兄夫婦と供に暮らす母親を見に帰るアラサー。厳しい母親のちゃんとしていた生活の面影が薄れ兄夫婦に侵食される。怠惰になる煎餅貪る。自分の部屋にいる母親。ここのシーンがすごく胸に来る。胸を食われる。すごく来るんだよ。あのカチッと自分の娘の前じゃ、娘にちゃんとを教えるためにちゃんとしていた母親が煎餅食いながらテレビ見てるんよ。来る。読んでてすごくくる。

そして年下の彼氏を喜ばせるためがちゃんとされるために。母親と同じ事を自分が嫌だった事をするアラサー。気づいたら母親が自分をちゃんとさせる事で依存していた。その事を。同じ事を。ストーカー気味に依存しているアラサー。誰かのために自分を殺すアラサー。すごくゾクリときた。文章でこんなゾクリときた。サスペンスでもホラーでもミステリーでもバイオレンスでもない。このゾクリはこの小説がこの主人公であるアラサーしか出せないゾクリ沼。そうだと思う。すごく面白い。

店に来てバファリンをずっと買う通称バファリン女。自分のように何かに依存してる。それがバファリン。その主人公とバファリン女との触れ合い。そして向き合ってラストへと向かっていく。戦ってるんだよ。戦ってるんだ。この戦いの結末は、ゾクリゾクリだけじゃない。何といえばいいのか?力強さ?そう向き合う強さを感じた。冷えている物語に心が灯るラスト。すごく大好きです。

この作者の別の物語を読んでみたいと強く感じる。フェイバリットな作家さんがまた増えた。とても嬉しいです。